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HBO療法の創傷ケアへの適応

HBO療法の創傷ケアへの適応

今回は、米国の創傷ケアセンターではスタンダードになりつつある、高気圧酸素療法をとりあげてみたいと思います。高酸素気圧療法は、Hyperbaric Oxygen Therapyのことで、HBOもしくはHBOTと省略されます。

HBO療法の創傷ケアへの適応

HBO療法が創傷ケアに役立つのか? という質問は、何十年からも議論されているトピックであります。しかし最近は、HBO療法は明らかに創傷治癒を促し、糖尿病の足創傷に限っては、下肢切断防止に効果があるというエビデンスが出揃ったこともあり、米国の医療保険会社やMedicare(高齢者国民保険)も、治療適応条件が整ったケースにかぎり、保険支払いが効くようになっております。
 The American College of Hyperbaric Medicine (www.achm.org)によると、米国での治療エビデンスが認められ、保険料が認可されるHBO治療適応条件は色々あります。 一酸化炭素中毒、ガス性壊疽、トラウマによる圧壊骨折、慢性骨髄炎、放射線による、骨や軟性組織の崩壊などが代表的です。 しかし、糖尿病性創傷、静脈不全創傷、褥瘡、動脈不全による創傷など、私たちが日常に見る慢性創傷も、従来の治療法で治癒効果が見られない場合、特に血流(酸素)不足で治癒困難と思われるケースは、HBO治療適応となっております。
日本では、未だにHBO療法の慢性創傷に対する治療効果を認めていないようですが*、糖尿病の足創傷に限っては、下肢切断を減少するというエビデンスが、欧米でも幅広く認められているため (以下参照)、将来的には日本でも活用されるようになってほしいですね。(*保険適用にはなっております)
英国のEvidence-based Medicineの大御所、コクランデータベースの文献から
(Kranke P, Bennett M, Roeckl-Wiedmann I, Debus S. Hyperbaric oxygen therapy for chronic wounds. The Cochrane Database of Systematic Reviews: Reviews 2004)
AUTHORS' CONCLUSIONS: In people with foot ulcers due to diabetes, HBOT significantly reduced the risk of major amputation and may improve the chance of healing at 1 year. The application of HBOT to these patients may be justified where HBOT facilities are available.
HBO治療とは、実際にはどのように行われるのでしょうか? 今回ミレニア・ウンド・マネジメント(株)では、高気圧酸素療法のBoard Certificationの資格も持っている、カルフォルニア州San Diego市の創傷ケア医師、Dr.Brad Baileyさんをインタビューしてみました。
ミレニア:
まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
Dr.Bailey:
私はラスベガスで有名な、ネバダ州のReno市で生まれ育ち、大学修士(BS)と医師ライセンス(MD)をUniversity of Nevadaで取りました。その後は、アリゾナ州Phoenix市で緊急治療室医(ER)のトレーニングを受け、現在はカルフォルニア州San Diego市郊外のPomerado病院の創傷ケアセンターのディレクター、また創傷ケア医師として働いています。
ミレニア:
医療の世界に興味を持ったのはいつ頃ですか?
Dr.Bailey:
そうですね、やはり16歳の時に交通事故で大怪我をして、一ヶ月以上入院していたときですね。私の世話を懸命にしてくれたドクターやナースをみて、これしかないと思いました。
ミレニア:
先生がHBO療法に興味を持ったのは?
Dr.Bailey:
それは、実はもっと前からなんです。 私は14歳のときからスキューバ・ダイビングをしていて、17歳の時にはセスナ飛行機の免許もとりました。ですから、酸素タンクなどには以前から親しかったんです。その後、2002年にERドクターとして働くためにSan Diegoに行ったとき、1年間のHBO療法フェローシップが地元のUCSD大学病院(以下写真) にあると聞いて、早速サインアップしました。この時ERだけではなく、他の医療領域で働けるという機会をもらえて、興奮していたのを良く覚えています。

ミレニア:
創傷ケアの世界へ入ったきっかけは?
Dr.Bailey:
やはりHBO療法と創傷ケアは、今では切り離せないものですので、HBOフェローシップの一部として、創傷ケアの基礎を学びました。その後創傷ケアの世界にはまり込み、現在は創傷ケア医師として忙しく働いています。
ミレニア:
HBO療法の基礎を説明していただけますか?
Dr.Bailey:
HBO療法の基礎は、100%濃度の酸素を1気圧以上で患者に吸引させることです。 簡単に言うと、ピュアな酸素を患者の肺の中、血液内に押し込むことによって、下肢虚血(PAD: Peripheral Artery Disease)の患者さんの足にも、高濃度の酸素を含んだ血液を十分に送り込むんです。
ミレニア:
先生のセンターではどのようにHBOを処方しますか?
Dr.Bailey:
基本的には1患者ごとに1時間半、2ATAで100%の酸素吸引の治療をします。治療スケジュールは月曜日から金曜日、毎日一回の治療を一ヶ月ほど継続します。
ミレニア:
HBO療法は、高齢者や糖尿病の患者には危険すぎる、というドクターもいますが?
Dr.Bailey:
それは事実無根です。 私の患者さんでも、高齢者、糖尿病の患者は沢山います。 HBOの副作用としては、高気圧による鼓膜のダメージの問題や、閉所恐怖症などがありますが、HBOドクターである私やHBO技師がしっかり患者をモニターしていれば、副作用は非常に少ないんです。過去一年間、このセンターでHBO療法を中止せざるをえなかった患者さんは閉所恐怖症の1人だけでした。
ミレニア:
HBO療法は、治療効果の割には高価すぎるという人もいますが?
Dr.Bailey:
それも事実ではないですね。 私のセンターでは個人用のMonoplace Chamber (以下写真参照)を2台使っていますので、整備経費は20万ドル(2千万円ほど)前後です。 HBO治療効果も色々な適応症で証明され、すでに治療エビデンスは整っています。下肢アンプタを防げるなら、と私の患者さんも納得して毎日治療に来ています。

ミレニア:
病院のビジネスとしてはどうなのですか?
Dr.Bailey:
院長はとてもハッピーですね(笑)。このセンターが2つのHBOチェンバーを設置したのは1年前ですが、現在では、HBO治療のスケジュールは毎日朝晩、完璧に埋まっていて、今日も5人のキャンセル待ち患者があります。
ミレニア:
外での建築工事がウルサイですねえ。(病院増築中でのインタビューでした)
Dr.Bailey:
ええ。この病院では創傷ケアの患者さんが多すぎて、とても需要に追いつけなくなったので、新しく創傷ケアセンターを2倍のサイズに増設して、HBOも4チェンバーにするんです。実はそれでも需要に追いつけないので、ここから15マイル北の病院にも、もうひとつのHBO療法付属の創傷ケアセンターを建築中です。
ミレニア:
この地域のHBO 治療の需要はそんなに凄いんですか!
ミレニア:
それでも、今日のHBO治療のスケジュールをみると、放射線治療(Radiation)からの創傷患者が多いですね。
Dr.Bailey:
ええ、医療関係者の間でもあまり知られていないのですが、癌治療のための放射線からの創傷はHBO治療がとても効果的なんです。私の50%以上のHBO患者は放射線治療後の患者です。米国でも寿命が延びると同時に癌患者も増えていますからね。
ミレニア:
放射線治療は人体にどのような影響があるのですか?
Dr.Bailey:
放射線は、体内で急激に増殖している癌細胞を殺すのはもちろんですが、同時に骨やその他の臓器にも悪影響を施します。例えば、今HBOチェンバーに入っている患者さんは、口内癌の放射線治療をうけた後、顎の骨と歯がボロボロになってしまい、私の知り合いの歯医者さんからの紹介です。癌治療は免疫力も低下するので、ひどい虫歯にもなるんですよ。でも、彼はHBO治療がうまくいっているので、硬い食べ物も一年ぶりに食べれるようになったそうです。
ミレニア:
素晴らしいですね!
ミレニア:
先生の創傷ケアセンターにも、先ほど凄いケースがありましたね。
Dr.Bailey:
ああ、あの20代の若い建築業の男性ですか? (写真参照)        彼は3週間前に建築現場で左手半分を鉄筋に挟まれたんです。ERに来たときは、もう手は真っ黒だったのですが、“ダメもと”でHBO治療をしてみたところ、見る見る良くなって、現在では指先以外は救済できそうです。足の創傷だとしても、アンプタするのとしないでは、患者さんにとって大変なQOLの違いでしょう? 数十万円の高酸素治療で手や下肢をアンプタから救えるのなら、HBO療法が高価すぎる、というのは勘違いというか、時代遅れでしょう?
ミレニア:
なるほど。今日は大変勉強になりました。ありがとうございます。

あとがき
高気圧酸素治療は、特殊な疾患に対すると療法で一般的に適応範囲が狭いと思われていますが、いろんな疾患に対し併用療法としても利用可能です。参考までにご紹介いたします。