アルコールブロックの必要性
虚血性潰瘍のため保存治療に移行したが、痛みはづづいており、それを和らげてあげたい、と思う場面に出くわすことがあると思います。こういった場面では、アルコールを使い末梢神経を麻痺させることができます。
Abeloff: アベロフによる臨床腫瘍学 第4版
Stuart A. Grossman, Suzanne Nesbit
キーポイントまとめ
局所鎮痛
局所鎮痛は、長時間作用する局所麻酔によって3時間から12時間に鎮痛状態にすることであるが、神経剥離剤(アルコール)は数週間から数ヶ月にわたり鎮痛状態を保つことができる。
通常は神経剥離の前に局所麻酔による診断的神経ブロックが施行される。これにより麻酔科医が局所の治療に対する反応を判断し、疼痛の代わりに起こる「麻痺」が耐えられる範囲であるかを考慮する。この局所麻酔で疼痛を一時的に抑えることが出来たら、アルコールをクモ膜下又は硬膜外に注射し、背部の細根にある侵害受容線維を破壊する。
これが外科的神経根切断を模擬した治療となるのである。これら神経剥離剤の注射は一般的に「恒久的神経ブロック」と呼ばれているが、通常の鎮痛期間は数ヶ月である。
身体所見
身体所見の結果は平熱、肥満、ヒスパニック系女性。頭部、頚部、胸部、腹部、背部、上肢は正常範囲内で、リンパ節腫脹は無し。皮膚の検査では左足前部下方に2cm の輪郭が明瞭な深い潰瘍(図1)があり、漿液性の膿が認められる。潰瘍部は厚く粘着性の硬化した壊死の皮膚と混ざった黄色いフィブリンで顕著に覆われている。
潰瘍の縁は硬化して紫色になっており、紅斑に囲まれている。幾つかの硬化状になった色素沈着があり、直径約1.5~2.5cm、両足に顕著に見られる(図2)。仙骨部や左腋窩部にも同様の色素沈着は見られるがそれほど顕著ではない。右上腕部には乾燥した3mmの膿胞あり。
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ブロックの種類 |
例 |
適応 |
注意 |
局所神経ブロック |
診断的 |
肋間神経ブロック |
疼痛の病因、局所治療後の副作用を見つけ出す。 |
鎮痛状態は数時間しか持たない。 |
交感神経依存性痛の治療 |
星状神経節ブロック |
交感神経依存性痛 |
繰り返してブロックする必要の可能性あり。 |
トリガーポイント注射 |
トリガーポイント注射 |
筋筋膜性疼痛症候群(MPS) |
繰り返してブロックする必要の可能性あり。 |
神経剥離ブロック
(アルコール又はフェノール) |
末梢 |
肋間神経ブロック |
胸壁腫瘍 |
鎮痛状態は通常数カ月続く。 |
内蔵 |
腹腔神経叢ブロック |
すい臓がん |
鎮痛状態は通常数カ月続く。 |
硬膜外及び脊椎麻酔 |
硬膜外ブロック |
2~4の皮節に限局した疼痛 |
鎮痛状態は通常数ヶ月続く。 |
From Grossman SA, Staats PS: The current management of pain in patients with cancer: Oncology 1994; 8:93.
Goldman: セシル内科学 4版
疼痛のある患者へのアプローチ
神経ブロック、脊髄麻酔、及び神経外科的介入
麻酔と神経外科的治療は場合によって、難治性の疼痛に有効である。ほとんどの神経内の疼痛線維には、運動線維、表在触覚線維、位置感覚線維が随伴しているため、神経ブロックの使用は限られている。
局所麻酔や、アルコール又はフェノールを使用した恒久的神経剥離治療は通常、疼痛のブロックに付随して受け入れがたい運動機能の消失を引き起こす。一時的な神経ブロックはしばしば理学療法を行う事案を作り、理学療法が持続した疼痛軽減になることもある。
交感神経の選択的ブロックは、反射性交感神経ジストロフィーや複合性局所疼痛症候群タイプI及びタイプIIなどの疼痛に有効である。
アルコール注射のテクニック
- 100%のエチルアルコール0.1ml を0.25%のブピバカイン0.4ml で薄めた溶液(計 = 20%のエチルアルコール0.5ml)を安定した針ポジションでモートン神経腫の外側に溶液の漏れがない様確かめながらゆっくりと注射する。
- 局所麻酔剤48ml と無水エチルアルコール2ml を混ぜることにより、4%のアルコール硬化療法剤ができる。今回は注射に純粋エチルアルコールと、USP,0.5%のエピネフリン入りブピバカインHCL(1:2000000)を溶液に使用。 4%に薄めたアルコールと2%のキシロカイン48ml と48ml の純粋エチルアルコールを混ぜて4%希釈アルコールを作ることも可能であるが、ブピバカインとエピネフリン混合液のほうが良い結果を得られている。
- 無菌状態で溶液を作ったら、容器にラベルを付け、硬化療法剤と局所麻酔を間違えないようにする。
- 準備が出来たら、作った溶液0.5ml を神経が分布していて疼痛のある箇所に注射する。このようなアルコール融除を使用した治療はモートン神経腫に有効である。神経周辺にエチルアルコールを注射することにより、脱水、壊死、原形質の沈殿をとおして化学的に神経剥離を起こさせる。この効果を最大に発揮するのは大径有髄線維においてである。Dockeryにおける100 名の患者の調査では、一連の4%エチルアルコール注射後、完全奏効率が82%、完全又は部分奏効率が89%であった。 Fanucchi らの報告では、40 名の患者集団に対する30%のアルコール注射4 回の後、10 ヵ月後のフォローアップで90%の部分又は完全奏効率であった。 Hyer らも、2005 年に8 件の神経腫のうち6 件に良い結果が見られたと報告している。
文献:
- Rengachary SS, Watanabe IS, Singer P, Bopp WJ. Effect of glycerol on peripheral nerve: an experimental study. Neurosurgery 1983;13 : 681–688
- Dockery GL. The treatment of intermetatarsal neuromas with 4% alcohol sclerosing injections. J Foot Ankle Surg1999; 38:403 –408 Hyer CF, Mehl LR, Block AJ, Vancourt RB. Treatment of recalcitrant intermetatarsal neuroma with 4% sclerosing alcohol injection: a pilot study. J Foot Ankle Surg 2005;44 : 287